偏微分方程式

このノートブックは偏微分方程式(PDE)の解析解を求める方法について説明している.偏微分方程式の数値解を求めることに関心がある場合は,数値的なPDEModelsの概要を参照するとよいであろう.

はじめに

偏微分方程式は,変数 についての未知関数 とその導関数との関係である.

偏微分方程式の例である:

偏微分方程式は,空間変数と時間変数の両方に関する物理量の変化率をモデル化しようとするものなので,さまざまな応用において自然に発生する.現在の開発状況では,DSolveは通常独立変数が2つの偏微分方程式で使える.

偏微分方程式の階数は,その中に現れる最高階の導関数の階数である.上記の方程式は一階偏微分方程式である.

関数 は, とその導関数が方程式を満足する場合,与えられた偏微分方程式の解となる.

上記の偏微分方程式の1つの解である:
解を検証する:

以下に挙げたのは,有名な偏微分方程式の例である(表のリンクをクリックすると,例が表示される).DSolveは,ある程度の制限はあるが(特に二階偏微分方程式),このすべてのタイプの方程式の記号解を与える.

前述の通り,偏微分方程式の一般解には,任意定数ではなく任意関数が含まれる.以下の例でその理由が明らかになる.

y に関する偏導関数はこの例には現れない.また,x に関するC[1][y]の偏導関数はゼロになるため,解に任意関数C[1][y]を加えることができる:

解に複数の任意関数がある場合は,C[1]C[2]等とラベルが付く.

一階偏微分方程式

線形・準線形偏微分方程式

一階偏微分方程式は,通常線形,準線形,非線形に分けられる.このチュートリアルでは,最初の2つのタイプを説明する.

未知の関数 に対する一階偏微分方程式は,以下の形式

で表せるならば線形だといえる.また,下の形式

で表せるならば準線形である.線形でも準線形でもない偏微分方程式は非線形である.

このチュートリアルでは,便宜上,未知の関数およびその偏微分を表すのにシンボル を使う.

以下は,定数係数同次一階線形偏微分方程式である:

上の方程式は,左辺が の線形多項式なので,線形である.この偏微分方程式にも を含まない項はないので,同次方程式である.

前述の通り,一般解には引数の任意関数C[1]が含まれる:
解が正しいかどうか検証する:
同次偏微分方程式の特殊解は,関数C[1]を指定することで得ることができる:
この特殊解の曲面のプロットである:

輸送方程式は,定数係数同次一階線形偏微分方程式のよい例である.

この輸送方程式では,便宜上 とする:

輸送方程式の解は,平面上の形式 のいずれの直線においても一定である.この直線は基礎特性曲線と呼ばれる.方程式 は三次元の平面を定義する.この平面と解の曲線との交差面を特性曲線と言う.特性曲線は常微分方程式系の解なので,偏微分方程式系を解く問題は,について常微分方程式系を解く問題に還元される.ここで は特性曲線に沿ったパラメータである.このような常微分方程式は,特性常微分方程式と呼ばれる.

非同次偏微分方程式の解には,同次偏微分方程式の一般解と,非同次偏微分方程式の特殊解との2つの要素がある.

非同次一階線形偏微分方程式である:
解の最初の部分 は非同次偏微分方程式の特殊解である.残りの部分は,同次方程式の一般解である:
これは,変数係数同次線形偏微分方程式である:
解を検証する:
次は変数係数非同次線形偏微分方程式である:
ここでも解は,同次偏微分方程式の一般解と非同次偏微分方程式の特殊解Sin[x]で構成されている:

ここからは,一階準線形偏微分方程式の例について考えてみる.

次の偏微分方程式は,右辺に という項があるため,準線形である:
解を検証する:
バーガーズ(Burgers)方程式は,準線形偏微分方程式の重要な例である.項z*qがあるため,この方程式は準線形となっている:
これは先に導入した表記法を使って書くことができる:

があるため,この方程式は準線形となる.

これで方程式を解く:
バーガーズ方程式の解を検証する:

準線形性があると,解の衝突,急勾配化,切断が見られる.従って,線形および準線形偏微分方程式の一般解を見付ける手続きは極めて類似していても,解の性質は大きく異なる.

非線形偏微分方程式

未知関数 に対する一階非線形偏微分方程式は,一般に以下の形式で与えられる.

Here is a function of , , and .

「非線形」とは, の非線形関数であることを意味する.例えば,アイコナール方程式には の二次方程式が含まれる.

一階線形(あるいは準線形)偏微分方程式の一般解には,任意関数が含まれる.偏微分方程式が非線形の場合は,完全積分により非常に有用な解が与えられる.その解とは関数 u(x,y,C[1],C[2])である.ここでC[1]C[2]は独立パラメータであり,u は平面の開部分集合の((C[1],C[2]))のすべての値について偏微分方程式を満足する.完全積分は,偏微分方程式の一般解を見付けるためだけでなく,その初期値問題を解くために使うこともできる.

これは簡単な非線形偏微分方程式である:
完全積分はパラメータC[1]およびC[2]に依存する.DSolveは線形および準線形偏微分方程式の一般解を返すので,完全積分が返される前に警告メッセージが表示される:
解を検証する:

C[1]C[2]の値が固定されている場合,上記の解は三次元平面を表す.従って,この偏微分方程式の完全積分は,2パラメータ族の平面であり,その各々が方程式の解曲面である.

次に,1パラメータ族の包絡線とは,その族の各メンバーに接する面のことである.例えばC[2]=5C[1]と設定すること等により,完全積分が1パラメータ族の平面に制限されている場合,この族の包絡線は一般積分と呼ばれる偏微分方程式の解でもある.

以下は,上記の偏微分方程式p*q==1の完全積分でC[2]=5C[1]と設定することにより,1パラメータ族の包絡線を見付ける:

非線形常微分方程式の場合と同様に,非線形偏微分方程式のなかにも,完全積分によって表されるすべての2パラメータ族の曲面の包絡線を構築することにより得られる特異解(特異積分)を持つものがある.

以下は上述の構築の例([K00]の429ページの方程式6.4.13)である:

従って,上記の偏微分方程式の特異積分は,- 平面に平行な平面となる.

要約すると,非線形偏微分方程式の完全積分には,さまざまな種類の解が含まれるということである.

完全積分にはこのような優れた特性があるため,幾何光学,力学をはじめとする多くの応用分野で役に立っているのももっともである.以下に,異なる種類の完全積分を示すさまざまな非線形偏微分方程式の例を挙げる.

アイコナール方程式の完全積分である:

この完全積分は,2パラメータ族の平面になる.この種類の解は,偏微分方程式が ではなく, および のみに明示的に依存しているときに常に生じる.の値が固定されているときは,解は 軸との角度がArcCos[C[2]]となるような,原点からC[1]単位の距離にある平面上の直線となる.これは,幾何光学の波面伝播でよく見られる.

アイコナール方程式の解を検証する:
次はクレロー方程式()の例である:
ここでも,完全積分は平面族である:
解を検証する:
下の方程式では,変数が分離できる.つまり,偏微分方程式を という形式で書くことができるのである.従って,方程式は簡単に積分できる:
解を検証する:
以下の例([K74]の202ページ,方程式6.49)では,独立変数 は明示的に存在しない:
解を検証する:

与えられた偏微分方程式を上記のタイプのいずれかに変換するためには,一般に座標変換を使うことができる.それにより,完全積分の式は標準的な積分の式と同じ形式になる.以下の非線形偏微分方程式の例では,完全積分を見付けるためにDSolveが座標変換を適用する.

次の偏微分方程式([K74]の201ページ,方程式6.47)は,変形 および を使って という形式に還元できる:
この偏微分方程式([K74]の213ページ,方程式6.93)は,変数が分離可能である極座標系で簡単に解くことができる:
この方程式([K74]の196ページ,方程式6.36)はルジャンドル変換を使って,線形偏微分方程式に変換できる:
解を検証する:

完全積分を見付ける汎用の実用的アルゴリズムはない.また,解はほとんどの場合,陰形式でのみ求められる.

以下の例([S57]の66ページ,問題2)の解は,陰形式である:
解はこのようにして検証することができる:

二階偏微分方程式

二階線形偏微分方程式の一般系は,次のように表せる.

ここで であり, および のみの関数であり, には依存しない.のとき,方程式は「同次」であるという.

二階導関数を含む最初の3つの項は,偏微分方程式の「主要部」という.この3項は方程式の一般解の性質を決定する.実際,主要部の係数は以下のように偏微分方程式を分類するの使うことができる.

ならば,その偏微分方程式は楕円型であるという.ラプラス(Laplace)方程式は なので,楕円型偏微分方程式である.

ならば,その偏微分方程式は双曲型であるという.波動方程式は なので,双曲型偏微分方程式である.

ならば,その偏微分方程式は放物型であるという.熱方程式は なので,放物型偏微分方程式である.

DSolveは限られた形式の二階同次線形偏微分方程式の一般解を求めることができる.その形式とは,以下ものである.

ここで は制約条件である.従って,DSolveはこの方程式が,定数係数および消滅する非主要部を持つものと仮定する.

以下は,3つの基本型(楕円,双曲,放物)の例と,その重要性の説明である.

まず,楕円型偏微分方程式であるラプラス方程式の一般解である:

この一般解には2つの任意関数C[1]C[2]が含まれている.この両関数の引数 が意味するのは,C[2]0のとき,解は虚軸 に沿った定数となり,C[1]0のときは に沿った定数となるということである.このような線は,偏微分方程式の特性曲線と呼ばれる.一般に,楕円型偏微分方程式には,虚数の特性曲線がある.

別の楕円型偏微分方程式である:
この方程式の虚数の特性曲線に注目のこと:
解は以下のように検証する:
次に,双曲型偏微分方程式である波動方程式の一般解を求める.波動方程式の定数 は光速度を表し,ここでは便宜上1と設定する:

波動方程式の特性曲線は は任意定数)である.このように,波動方程式(すべての双曲型偏微分方程式)には,実数の特性曲線族が2つある.波動方程式の初期条件が指定されている場合は,解は特性曲線に沿って伝播する.また,固定された1対の特徴線により,交点にあるオブザーバのnull coneが決定される.

双曲型偏微分方程式の別の例である:
方程式に実数の特性曲線族が2つあることに注目のこと:
以下のように解を検証する:
最後に,放物型偏微分方程式の例である:

この方程式には, という実数の特性線の1つの族しかない.実際,どの放物型偏微分方程式にも実数の特性曲線族が1つしかない.

以下のように解を検証する:

熱方程式は放物型であるが,これは非消滅の非主要部を持ち,DSolveで使用されるアルゴリズムがこの場合適用されないので,ここでは考慮しない.