電流

目次

はじめに

このモノグラフでは偏微分方程式を使って電場,電位,電流分布をモデル化し解析する.ここで示すモデルでは,磁気効果も電磁放射も考慮しない.

ここで焦点を当てるのは電流の連続の式であり,その大きな目的は電位を計算することである.この方程式は,磁場や誘導作用が無視できる,静的または低周波数の装置のシミュレーションに対処する場合に主に使われる.この方程式は磁場作用や誘導作用が無視できない場合は使えないので注意が必要である.このモノグラフのキーポイントの一つとして,ある特定の場面で電流の連続の方程式が利用できる場合に,その方程式を構築する方法を示すことが挙げられる.

電流の連続の方程式が有効であるためには,波長 と表皮深さ は電気装置の代表長さ よりずっと大きくなければならない:

まず波長の基準を見る.電磁波の波長が物体の代表サイズよりずっと大きい()場合,関連付けられた電磁波が物体の大きさ 上に速度 で伝搬するために必要な時間は,シミュレーション時間と比較して短い.したがって,十分遅い時間変動の低周波数レジームでは,電磁波の影響は無視できる.

調べる必要のある2つ目の基準は表皮深さである.表皮深さ (単位[])は電磁波が物質を貫通することができる深さの測定値である.表皮効果は導体の場の強度は周波数が大きくなるにつれて減少するとしている.例えば,60[]での銅の表皮深さは約8.5[]である.つまり,標準の2.5[]の銅線では,線の横断面全体が交流の電気の流れに使われる.周波数が高くなると表皮深さはずっと小さくなり交流の電気の流れは銅線の表面にもっと閉じ込められる.例えば2.4[]では銅線の表皮深さは約1.33[]である.この効果は電流の連続の方程式ではモデル化することができないため,モデル化するものが表皮深さに影響されないことを確かめておく必要がある.

60[]での銅線の表皮深さ(単位は[])を計算する:
2.4[]での銅線の表皮深さ(単位は[])を計算する:

表皮効果は次の図で例示する.

40.gif

円筒導体の断面で示された電流の分布.交流電流の場合,電流密度は表面から中心に向かって指数関数的に減少する.表皮深さ は電流密度が導体表面の値のわずか1/e となる深さとして定義される.

表皮効果の詳細は「電磁気学」に記載されている.

このモノグラフで使われるメインとなる方程式は,以下で与えられる電流の連続の方程式である:

ここで []は電流密度, []は体積電荷密度, は単位が[]の時間変数である.

電流の連続の方程式は導体材料および静電容量材料における直流電流(DC),一般の時間変化電流,交流電流(AC)をモデル化するために使われる.この方程式は一旦拡張すると,スカラーの電位 []について解くことができる.

静電場をモデル化する別の方程式として,静電気学モノグラフで説明した静電方程式がある.静電方程式と電流の連続の方程式はどちらも電位 について解くことができ,電子等の導電媒体または静電容量媒体にある電荷を介して直接関連している.しかしそれぞれの方程式は異なる現象をモデル化する.

偏微分方程式(PDE)で電磁装置をモデル化することだけが電磁装置のモデル化の方法ではない.他の方法として常微分方程式(ODE)を設定するというものがある.この方法はWolfram System Modelerで使われている.大雑把に言うと,System Modelerの方法は電磁装置の大きな系の相互作用に向いており,偏微分方程式の方法は特定の装置の細かい解析に向いている.この両方のアプローチを組み合せて使うとよい場合もある.

ここで取るアプローチは,最初のセクションでコンデンサを使ってさまざまな電磁解析タイプと利用できる機能を紹介する.次に根底にあるアイディアや概念の理論的説明をする.さまざまな解析タイプに対する直感が培われると理論的背景はずっと理解しやすくなる.その後,利用できる境界条件について話す.

この電気装置解析の目的は特定の制約条件下での電位分布 を求めることである.後続のステップでは,電場の強さ []等の二次的な場および抵抗 等の値を求める.これらの物理量の解析および解釈は考慮している装置のより質の高い工学設計を作成するのに役立つ.

このようなモデリングの過程はNDSolveおよびParametricNDSolveで解くことのできる偏微分方程式系になる.

電磁気モデリングの拡張例はモデルコレクションで見ることができる.

電磁気装置解析は通常段階を追って行われる.まず物体を解析するために幾何学的モデルを作成する必要がある.幾何学的モデルは通常CAD(コンピュータ支援設計)プロセスで作成される.CADモデルは製品にインポートすることも製品内で作成することもできる.幾何学的モデルをインポートするためにDXFSTLSTEP等の一般的なファイル形式がサポートされている.これらの形状はImportを使ってインポートすることができる.別の方法として,例えばOpenCascadeLink等を使って製品内で幾何学的モデルを作成するというものもある.

一旦幾何学的モデルができると,どのような解析を行うかを考える必要がある.現在サポートされている解析タイプは静的解析,周波数応答解析,パラメトリック解析である.次のステップでは境界条件と制約条件を設定する.使われる材料でPDEモデルがさらに指定される.PDEモデルが完全に指定されると,その後の有限要素解析で調査中の装置の所望の数量が計算される.この数量は,可視化することまたは導出された数量を計算することによって後処理される.このノートブックでは,CADモデルの生成以外のすべてのステップを示す.

電磁気装置は通常三次元物体である.簡約された二次元モデルとなる特殊な場合もある.実際,二次元モデルは電気工学の重要な問題の90%と解くということが分かっている[Cardoso, 2018].

このチュートリアルで使われる記号およびそれに対応する単位は用語集のセクションに要約してある.

基本的な例

電磁気学で有限要素法の使用法を例示するために,簡単な例を使って設定の概要,さまざまな解析タイプ,可能な後処理のステップを説明する.

有限要素パッケージをロードし,$HistoryLengthを0に設定する:

この基本的な例では,電気PDEモデルの設定のワークフローを紹介する.簡単にするために非常に単純なコンデンサをモデル化する.コンデンサはよく研究されている装置で,さまざまな解析タイプを使ってコンデンサから異なる電気特性を抽出る方法を示することができる.ここでは定電流解析,周波数解析,パラメトリック解析を扱う.現行バージョンのWolfram言語では時間依存解析は利用できない.

それぞれの解析で表皮深さ( と表記)を計算し,それとコンデンサの代表長さ を比較する.さらにコンデンサを通過する電流の絶対値は小さい,つまり電場は無視できるものと仮定する.

2枚の伝導板とその間の誘電体からなる3Dの円形平行平板コンデンサの以下の設定を考える.

68.gif

3Dコンデンサと誘電領域の断面(青)の図.

青で示された誘電領域だけモデル化すれば十分である.

電磁気モデルの作成は常に同じステップからなる:

形状

コンデンサ装置をモデル化するためには2つの方法がある.一つは装置とそれを取り巻く体積を考慮する方法である.このアプローチを使うと平板の端に現れる場のシミュレーションが可能になり,装置から考慮される周囲の体積まで外側に拡張される.この場はフリンジ電解として知られている.二つ目のアプローチはここで使うが,それは誘電領域だけを考えるものである.この方法だと,モデル化する形状が小さくて済み,メッシュに含まれる要素も少ないという利点がある.その結果領域全体のシミュレーションに比べるとランタイムが短い.

伝導板の領域はどこでも同じ電位を持ち,体積領域ではなく境界として扱うことができるため,どちらの場合も金属の接触はシミュレーションの必要はない.

69.gif

左:2Dコンデンサおよびその周囲体積のシミュレーション領域.右:2Dコンデンサだけからなるシミュレーション領域.どちらのシミュレーション領域からも伝導板領域は除かれている.

誘電領域の半径 と高さ を[]で定義する:
特性サイズ を定義する:
Cylinderを使って誘電領域を定義する:
円筒を可視化する:

幾何学的モデルで使われるスケールには気を付けなければならない.例えば,境界メッシュの長さがメートルの単位なら,材料パラメータは一貫した単位で指定しなければならない.

3D幾何学的モデルの生成およびインポートに関する詳細はチュートリアル「OpenCascadeLinkを使う」で見ることができる.

材料パラメータ

次のステップは材料パラメータを割り当てることである.一般に電磁気モデルのパラメータはすべて,必要なパラメータ値を含むAssociation pars に集められている.

このモノグラフ全体で,デフォルトの電気定数 []が使われている.方程式をスケールするために定数に1等の異なる値を使う場合は"VacuumPermittivity"パラメータを指定することもできる.

このモデルでは,コンデンサの誘電体の比誘電率であり,伝導率 []はである.これらの値は一般的な誘電材料を表す.

比誘電率 と伝導率 []の値を指定する:

材料パラメータの設定をもっと簡単に行うためにはEntityから材料を選ぶとよい.自由形式入力を使うと簡単にEntityが使える.

材料のEntityを使って材料パラメータを設定する:
銅を指定する別の方法:

これらのモデルパラメータを調べることもできる.

処理されたモデルパラメータを調べる:

現行バージョンのWolfram言語では,材料Entityを指定することで伝導率 が使われている場合に対応できる. の値は現在材料の実体では利用できない.

材料パラメータはQuantityオブジェクトとして与えることができる.材料が利用できない,または異なる単位が必要である場合は,直接"RelativePermittivity"等のパラメータを指定することで材料特性を加えることができる.

指定することができるプロパティとその名前の完全なリストはElectricCurrentPDEComponentのリファレンスページで見ることができる.

いくつかの材料からなる形状を使うこともできる.その例は電流の複数材料についてのセクションに挙げてある.

単位

形状の単位が材料の単位と異なる場合,材料の単位がスケールされる.STEPファイルからインポートされた形状はミリメートルの単位である場合が多い.

材料を設定し単位をスケールする:

内部ではすべての材料データの単位は"SIBase"単位に変換される.その結果,長さのデフォルト単位は"Meters"になる.形状の単位もメートルである場合は何も変更することはない.形状の単位はメートルでない場合はPDEと材料プロパティを形状の単位にスケールするか形状を"Meters"にスケールするかしなければならない.PDEおよび材料パラメータの単位をスケールするために,パラメータ"ScaleUnits"を与えることができる.明示的に述べていない限り,このノートブックの例ではデフォルトの"SIBase"単位を使う.

PDEModelsで使われる単位についての詳細は,PDEModelsの最良の手法チュートリアルでご覧いただきたい.

境界条件

問題を完全に指定するためには,物理的境界で境界条件を定義しなければならない.基本的にこれは境界でDirichletConditionNeumannValueを適用することで行うことができる.さまざまな境界条件を使うことができるので「電流の境界条件」のセクションで詳しく説明する.この概要ノートブックの目的では,電位条件と電流密度境界条件で十分である.この場合,平板の一つから電流を利用することで装置を充電する.

このセクションの目的は境界条件を適用する位置を求めることである.

境界条件を適用する位置を求める方法の一つに,形状セクションで定義した大まかな形状と一緒に可視化するというものがある.電流密度境界条件は上の平板に適用され,電位条件は下の平板に適用される.

上の平板の表面:
表面を可視化する:

下の平板にも同じ方法を使うことができる.

下の平板の表面:
絶縁表面:

誘電体の横に,電気絶縁条件がある.この境界条件は,境界に流れ込む電流はないことを意味しており,ゼロのNeumannValueに等しい.ゼロのNeumannValue境界条件は,他に何も指定されていない場合のデフォルトの境界条件なので,その境界条件は省略することができる.

もっと複雑な形状では,境界条件の述語を指定する別の方法の方が適切な場合もあるので,球面コンデンサの適用例で示す.

メッシュ生成

有限要素解析を行うためには,幾何学的領域をメッシュに離散化する必要がある.

メッシュを生成する:

メッシュ生成プロセスに関する詳細は要素メッシュの生成チュートリアルに記載されている.メッシュをインポートすることもできる.FEMAddOnsを使うと一般的なメッシュファイル形式をインポートすることができる.

定常電流解析

まず定常電流解析を見てみる.定常とは時間変化がないことである.定常電流解析では,主として電位分布 を求め,二次的な導出数量として装置内部の定常電流束 []を求める.定常電流解析を行うと,系の抵抗 を抽出することができる.

定常解析では,周波数がゼロになる限界で表皮深さは無限になる.したがって分類 が満足するため電流の連続の方程式を使うことができる.

定常電流の場合,定常解析が実質的に電流の連続の方程式の静形式を解く:

ここで時間微分項 はゼロになっている.

定常電流の連続の方程式にオームの法則を適用することによって,以下の方程式を求めることができる:

ここで従属変数は,位置 によって変化する電位 であり, []は電気伝導率である.この方程式は電流の連続の方程式の電位版であり,関数ElectricCurrentPDEComponentによって提供された方程式である.

この方程式はElectricCurrentPDEComponentで提供される静電方程式ElectrostaticPDEComponentと非常によく似ており,誘電率 は考慮されている材料定数である.方程式はいずれも異なる物理現象を記述しており,異なる場面で使われるという点に注意すること.静電方程式は,関連する電流のない電場をモデル化する.電流方程式は電流に関連した電場をモデル化する.こういう訳で伝導体のモデル化には電流方程式の方が適しているのである.これとは対照的に,静電方程式は誘電材料をモデル化するのに適している.

次の例では,通常絶縁体である誘電体を伝導体であるかのように解析する.材料の電気伝導率 を使う.この値は []である.

完全絶縁体は電気伝導率がゼロの材料だけなので,電流の連続の方程式を使って完全絶縁体をモデル化することはできない.

誘電体を伝導体として扱うことで,誘電体の抵抗が計算できる.

変数を設定する:
定常電流PDE成分を設定する:

装置を充電するために,平板の一つに通常の電流密度の値を適用して誘電体を充電する.

上の平板に電流密度境界条件を設定する:

上の平板を流れる電流 []は,ElectricCurrentDensityValueを呼び出すと表面境界の面積で自動的に分割される.

下の平板は接地している.

下の平板に接地電位を設定する:

この2つの境界条件で,平板間の電位差が生まれる.

PDEを解く:

結果はInterpolatingFunctionオブジェクトであり,電位分布 を与える.

解法のプロセスおよびそのオプションについての詳細は有限要素のためのNDSolveオプションで見ることができる.

後処理

静電PDEモデルの主な解は電位である.

平面 における電位を可視化する:

また電場の強さ []にも関心がある.

電場の強さ を計算する:

三次元モデルの場合,関数Gradは3つの独立変数 をそれぞれ持つ3つのInterpolatingFunctionのリストを返す.

特定の座標において電場の強さを評価する:

電場のさまざまな成分にはPartを使ってアクセスすることができる.

電場の 成分を抽出する:

抵抗 を計算するために,上の平板の電圧の値とコンデンサを通過する電流の値を知る必要がある:

抵抗は関数ElectricCurrentImpedanceを使って計算することができる.

抵抗の値を計算する:

この関数は,装置における電圧の低下 を計算してその境界における電流密度 []で割る. を得るために,この関数は上の平板境界で平均電圧を計算する.つまり,モデルから得た電圧Vfunを統合して,その結果を同じ境界の面積で割るのである.

抵抗,インピーダンスの値の計算についての詳細は「抵抗とインピーダンス」セクションで説明してある.ここではインピーダンスが抵抗の一般化であるということを知っているだけで十分である.

時間依存解析

実質的に時間依存解析は,過渡電流の連続の方程式を解く:

ガウスの法則オームの法則を過渡電流の連続の方程式に適用すると以下の方程式になる:

ここで []は電気定数, は無単位の比誘電率である.導出の詳細は「一般的な時間依存電流」セクションに記してある.

過渡電流の連続の方程式は材料の誘電特性()と伝導特性()の両方を考慮する.

時間依存電流の連続の方程式を設定する:

最も過渡的なPDEは従属変数項の微分を1回行うという特徴を持つ.この種類のPDEを解く際は,空間変数 が有限要素法で離散化され,線の方法で時間積分が行われるという準離散化アプローチが取られる.しかし上記の方程式の場合は,時間微分項が空間微分に独立ではないため,このアプローチは取れない.したがってこのPDEはこのバージョンのNDSolveで直接解くことはできない.

時間依存の場合を解くことはできないが望みがすべてなくなったわけではない.コンデンサは 装置としてモデル化することができるので,実際に方程式1を解かなくてもコンデンサの時間依存挙動を再現することができる.文献[Agarwal & Lang, 2018]から, 装置では電流 は以下で与えられることが分かっている:

ここで τ は時間定数 []である.ここで必要なのは装置の抵抗と. 電気容量だけである.

コンデンサの抵抗の値は上で計算した.

コンデンサの電気容量は静電解析で得ることができる.その解析は「静電気学モノグラフ」の基本的な例として示してある.そこではここで使うのと同じコンデンサの電気容量の値が計算してある.

電気容量の値を定義する:

抵抗値は「定常」セクションで行った定常電流解析から得る.

時間定数 を計算する:
破線で定常値を示して,上の平板における電位 をプロットする:

プロットから, が大きい場合コンデンサの電圧は []で与えられる最終値に近付き, []では関数はその最終値のに達する.

プロットがから に増加することは時間定数 で特徴付けられる.実際,定数 によって装置が定常挙動に達する早さが決まる.

NDSolveは時間依存電流の連続の方程式を解くことはできないが,多くの場合その代替となる周波数バージョンを解くことはできる.

周波数応答解析

周波数応答解析はある特定の変数(この場合は電圧)が,指定された周波数 []における交流電流等の時間変化の正弦波入力に対してどのように振る舞うかに関する情報を与える.周波数解析を通して,系のインピーダンスを抽出することができる.

電流の場合,周波数応答解析は実質的に時間調和電流の連続の方程式を解く:

ここで []は角周波数, は虚数単位である.

ガウスの法則オームの法則を時間調和電流の連続の方程式に適用すると以下の方程式になる:

ここで []は電気定数, は無単位の比誘電率である.この方程式はElectricCurrentPDEComponentで生成することもできる.このためには角周波数変数 []を指定する.

過渡電流の連続の方程式のように,時間調和バージョンも材料の誘電特性()および伝導特性()を考慮する.

方程式2の電位 は以下の方程式の複素数値の振幅である:

ここで はフェーザ表示として知られる.周波数解析の解は常に複素数になる.フェーザ表示の詳細は「時間調和」セクションで説明する.

周波数応答変数を設定する:

時間依存の変数指定とは異なり,この変数指定では従属変数は独立変数としての を持たない点に注意する.

周波数応答の電流のPDEモデルを設定する:

最初の場合として, []で振動している電流励起化のコンデンサの挙動を見る.

まず基準 が満足されているかどうかを見る.この誘電材料では透磁率 と仮定する.

60 []での表皮深さを計算する:
を表示する:
表皮深さと特性サイズを比較する:

周波数解析の基準 を満足していることが分かる.

さらに電流の絶対量は小さいと仮定される.これは無視できるほどの磁場と磁気的に励起された電流を暗示する.

周波数と周期を設定する:

境界条件は定常解析で使ったものと同じである.

下の平板に接地電位を設定する:

余弦波のように []でから まで振動する交流電流でコンデンサを励起するためにはElectricCurrentDensityValueを使う.余弦波を指定するために実数値 を指定する.電流は上の境界で適用される.

上の平板で内向きの電流を設定する:

オイラーの公式を適用し,関係 を使って時間領域内の境界条件から電流の値 を表すと,それは余弦関数 に簡約されるのが分かる.

以下のフェーザ表示を展開する:
転回されたフェーザ表示の実部を得る:

境界条件で指定された電流の振幅は実質的に余弦波のように動作するのを観察する.

についての調和PDEを解く:

この解から,抵抗 を得るのと同じ方法でこの装置のインピーダンス []を得ることができる.

インピーダンスの値を計算する:

抵抗またはインピーダンスの値の計算についての詳細は「抵抗とインピーダンス」セクションに記載されている.

伝導電流と変位電流

周波数解析または時間解析で全電流密度 を計算するためには,が伝導電流 と変位電流 の和であることを考えなければならない:

したがって,時間調和電流の連続の方程式は以下のように表すことができる:

方程式3の項を並べ替えると,電流は以下の方程式で与えられる:

これらの電流は,「定常解析」で示したのと同じ手順を使って電場 から計算されている.

周波数領域の解を時間領域の解に変換する

周波数解析を行うとき,以下の方程式を使えばその解を時間領域の解に変換することができる:

解を時間領域に変換する詳細は「時間調和」セクションを参照されたい.

この場合,解の時間挙動はから []の範囲で解析される.

時間依存電圧の値のリストを生成する:
電流について同じことを行う:
コンデンサの電流と電圧を可視化する:

電圧を青,電流をオレンジで描画する.この2つの間には位相シフトがある.

パラメトリック解析

PDEモデルのパラメータを変化させて,さまざまな値についてPDEを繰り返し解きたい場合もあるだろう.この場合に便利なのがパラメトリック解析である.

例として,パラメトリック解析と周波数解析を組み合せて,から の間で []の矩形波電流で励起するコンデンサの上の平板の電圧の動作を調べる.

60 []での表皮深さを計算し,特性サイズ と比較する:

パラメトリック・周波数解析でもまだ基準 が満たされていることが分かる.

線形材料の場合,フーリエ解析を使ってステップ関数のような非調和の周期入力から発生する電圧を求めることができる.このアプローチでは矩形波のフーリエ係数をそれぞれ別々に解き,重ね合せの原理を使って解 を重ね合せなければならない.最後に解は時間領域 に変換することができる.

周波数 の矩形波のフーリエ級数は以下で与えられる:

ここで は矩形波の各周期で適用する定電流値,は値 の基本角周波数である.

ここで ωと定義すると,方程式は以下になる:

この場合無限まで足し合せられるのではなく,無限数の周波数上で足し算を行う.

和についての無限数の周波数は からまでの周波数のリストによって与えられる.ここで は基本周波数であり, []に設定する.

使用する周波数のリストを設定する:

定常解析および周波数解析のように,コンデンサは上の平板に電流を流すことで励起される.これは上の平板の電流密度境界条件で行われる.境界の値は方程式4に対応する.

各ふーり絵係数について解く必要があるため,境界値式の一部である のパラメトリック調査を行う.各パラメトリック調査の結果は合計され を与える.

周波数解析のように,ElectricCurrentDensityValueを電流 だけで指定すると,から まで振動する周波数 の余弦波のように振る舞う.

方程式5の項を計算するために,以下の方程式を使う:

内向きの周波数依存電流を設定する:

虚数単位 を加えて,余弦動作ではなく正弦波動作が得られるようにする.

振幅 で記号的フェーザ表示を展開する:
展開したフェーザ表示の実部を得る:

境界条件で指定された電流の振幅が実質的に正弦波のように動作することが分かる.

のパラメトリック関数として調和PDEを設定する:
要求された周波数における調和解を計算する:

この例の目的は,パラメトリック周波数解析を使うことによる上の平板における電圧の時間挙動を見ることである.したがって,次のステップでは方程式6を使って解を時間領域に変換する.

電圧解をにおけるからの時間領域に変換する:
電流 からの時間領域に変換する:
時間のリストを作成する:

最後のステップとして,それぞれの周波数の対応する電圧寄与をすべて足して,全電圧 を得る.同様にして電流 を得る.

各項の総和を求め,電圧値と電流値だけ抽出する:
時間リストを前の変数に加える:
時間の経過に伴う上の平板における電流と電圧を可視化する:

プロット中のオレンジ色の線はコンデンサのオンとオフの挙動を示している.青い線はコンデンサが時間とともにどのように充電し放電しているかを示している.

解を時間領域に変換するときにより多くの周波数とより多くの点を使ったら,両方のプロットの解像度を向上させることができる.

方程式

このセクションでは,電流をモデル化するための偏微分方程式(PDE)を紹介する.電流には直流(DC),交流(AC),一般の時間依存電流が含まれる.

このモノグラフで使う主となる方程式は電流の連続の方程式であり,以下で与えられる:

ここで []は電流密度, []は電荷密度, []は時間変数である.この方程式は誘起効果や磁気効果を考慮していないことを理解することが重要である.つまり,この方程式は誘起効果や磁気効果をモデル化するためには使えないのである.

マクスウェル方程式から電流方程式を導出するとき,磁場が電流密度に影響を及ぼさないように簡約化を行う.そうしないと完全なマクスウェル方程式を解かなければならず,それは非常に多量の計算リソースを要求する可能性がある.しかし電流の連続の方程式が問題となっている場面で使えることを確実にする必要もある.

電流の連続の方程式は通常オームの法則が適用できる伝導体をモデル化するために使われる.これは伝導率がゼロ である完全絶縁体をモデル化するのには適さない.

電流は以下の2つの方法でモデル化することができる:

どちらのアプローチもスカラー電位 について電流の連続問題を解く.

定常状態解析では電位の差によって直流が生成される.この解析タイプは対象となる材料の電気伝導率 に基づく.

動的シミュレーションでは,十分に遅い時間変動と十分に小さい次元がある場合準静電解析を行うことができる.つまり,電磁波が物体サイズ 上を速さ で伝搬するために必要な時間は関心のある時間 と比較して短いということである.

ここで比率 は電磁波が長さ を伝搬するのに必要な時間である.

方程式7は波長 について再定式化することができる.この場合,波長 が物体のサイズ よりずっと大きいならば電磁放射は無視することができる:

ここで以下を考える:

どちらの場合も誘起効果と磁気効果が無視できると仮定している.つまり,対象となる物体の表皮深さ はその特性サイズ と比べて十分大きくなければならない( ).そうでなければ磁気効果を考慮しなければならないからである.この近似はマクスウェル方程式の準静電近似と言われる.

準静電界解析では,時間依存の電場の影響を受ける材料の直接的な結果として,常に伝導効果()と容量効果()を考える必要がある.伝導効果は電流を生成する自由電子の流れに関連し,容量効果は電場と材料およびその分極とのインタラクションを介した電気エネルギーの保存に関わっている.

時間変化がある場合,全電流は伝導電流と変位電流の和である.伝導電流は電気伝導率 に関連しており,変位電流は容量効果および誘電率 に関連している.

電流の連続の方程式は1D1D軸対称2D2D軸対称,3Dの各モデルについて解くことができる.

次のセクションでは,詳細およびこの方程式の導出について述べる.

マクスウェル方程式から電流の連続の方程式への変換

電流の連続の方程式の導出は,マクスウェル方程式から始まる.

ここで は勾配演算子, はドット積,はクロス積である.ベクトル値の数量はすべて太字である. []と []はそれぞれ電場と磁場の強さである.[]は電束密度,[][]は磁束密度(磁気誘導とも呼ばれる)である.「束密度」とはある面積を通過する流束のことである.[]は電流束密度(電束密度),[]は電荷密度であり,それぞれ磁場と電場のソースを表す.このチュートリアルではSI単位を使う.

磁場のガウスの法則以外,マクスウェル方程式は電流の挙動を調べるための基礎をなす.電流は静電気または準静電気の2つの異なる仮定のもとでマクスウェル方程式を使ってモデル化することができる.

交流電流(AC)または時間変化電流のモデル化の場合,準静電近似を使う必要がある.準静電近似では,マクスウェル方程式は以下になる:

ファラデーの法則(方程式8)から磁気誘導項 は無視され,マクスウェル・アンペールの法則(方程式9)から項 は保存された.

準静電近似では およびその時間変化は非常に小さいので誘導項 は無視できる.一方,定常解析では時間変化がないので を保存するのである.

電流の連続の方程式を導出するために,以下の通常真となるベクトル恒等式を見てみる:

任意のベクトル場 の回転の発散は常に0である.この恒等式をマクスウェル・アンペールの法則(方程式10)に適用すると以下が得られる:

つまり,磁場の強さ は電荷の準静電気的動作では考慮されない.

ガウスの法則(方程式11)を使うと以下の方程式が得られる:

この方程式は電荷密度の連続の方程式と呼ばれ,電流をモデル化するための基礎をなす.この方程式は領域内での体積電荷密度の時間の変化率は,その領域に存在する外向きの正味の電流束に等しいというものである.

電流の連続の方程式の定常時間非依存のバージョンは以下になる:

この方程式は直流電流(DC)のモデル化に適している.

次のステップとして,電場 と電流密度 を関連付ける構成関係を適用し,電流の連続の方程式をスカラー電位 について書き直す.

についての定常電流の連続の方程式は以下になる:

についての電流の連続の方程式の導出は以下のセクションで示す.

モデル自体では磁気効果を考慮していないが,磁場は副作用として常に生成される.ただモデル化された電荷には影響を及ぼさない.したがって,マクスウェル・アンペールの法則(方程式12)と磁場のガウスの法則 を解いて を完全に決定すると, を二次的数量として決定することが可能になる.

オームの法則

電流の連続の方程式に対する構成関係はオームの法則である.オームの法則は伝導体において伝導電流密度は材料全体に適用される電場に比例するというものである.これは線の電場 が材料内の自由電子にかかる力を表し,電子を動かすからである.

383.gif

適用された電場 を持つ伝導体.電場 の向きは電子の流れの向きと逆方向である.

オームの法則は以下で与えられる:

ここで []は電気伝導率である.

材料の伝導率 は材料内の電子が適用された場にどの程度反応するかを測定する.電子が主たるキャリアではない他のタイプの材料の場合は,別のモデルが必要である.

外部で生成された電流密度 []を含むより一般的なバージョンのオームの法則は以下で与えられる:

はそれに関連付けられた電場 を持たない.

ファラデーの法則 (方程式13)によると, は回転がなく,スカラー電位 が導出できる.

一般的に,場については以下の方程式が推測できる:

これは任意のスカラー関数 の勾配の回転はゼロというものである.方程式14とファラデーの法則を比較すると, は関数 の勾配として表すことができると推測できる:

次となる:

負の符号は簡便性と歴史的理由によって付けられた.

オームの法則とスカラー電位を構築したので,それを電流の連続の方程式に代入して必要な方程式を得る.

定常電流か直流電流か

定常解析では,電流の連続の方程式マクスウェル方程式を組み合せて使って,オームの法則で記述される材料の直流についての基本方程式を導出する.

直流(DC)では,電荷密度の変化率はゼロである:

よって,電流の連続の方程式は以下の形式を取る:

方程式15と方程式16から,電流の連続の方程式は以下になる:

この方程式の従属変数は電位 []であり,位置 で変化する.この方程式は電気伝導率 []を拡散係数とした拡散項からなる.

この方程式は伝導体の直流をモデル化するのにつかわれる.完全絶縁材料はシミュレーション領域から削除され,外部の完全絶縁表面は境界としてモデル化される.

電流の連続の方程式は電流源を含むように一般化できる:

[]は領域内の体積電流源を表す.これは方程式の右辺にあり「電流源タイプ」のセクションで説明する.

また,外部生成された電流密度 []を方程式に加えることもできる:

外部電流密度はそれに関連付けられた電場を持たない.この追加項は追加の微分項 としてモデル化される.

直流のシミュレーションが行われるとき,副作用として磁場が生成される.しかし磁場は動かないので電流を誘発はしない.その結果一旦定常電流が分かると磁場は で完全に決定され計算される.

動的電流

次のセクションでは一般的な時間依存電流の連続の方程式と時間調和電流の連続の方程式を導出する.これは電流の連続の方程式とガウスの法則を組み合せることで可能である.どちらの方程式も電位 についてのものである.

一般的な時間依存電流

この場合,ガウスの法則によると電流の連続の方程式はその時間微分項を維持し, には が代入される:

方程式を整頓すると以下が得られる:

電束密度 は以下で定義される:

これは電場の強さ と電束密度 の間の構成関係である. は単位[]の分極ベクトルである.

この の間の構成関係(方程式17)とオームの法則(方程式18)を方程式19に代入すると,以下が得られる:

最後に を代入すると,次の過渡電流の連続の方程式が得られる:

項を分離すると,最終的に最も一般的なバージョンの電流の連続の方程式は以下になる:

時間依存電流の連続の方程式は2つの部分からなる.最初の項は定常電流の連続の方程式の時間依存のバージョンである.2つ目の部分は体積電荷密度(方程式20)の時間微分であり,時間微分以外は静電方程式に似ている.この理由から,電流の連続の方程式のパラメータ名は静電方程式のパラメータ名と同じなのである.

次にこれらの項が何を意味するかを見てみる.最初の項は伝導電流を意味し,2つ目の項は変位電流 を指す.

伝導電流 はオームの法則から,常に電場と関連している.伝導電流は導電材料内の自由電子の運動と関係している.

変位電流 自体は誘電材料の2つの部分からなる.に依存する電場部分と に依存する分極部分である.考慮している装置は時間変化の電流または時間変化の電圧の差を適用することによって励起する.電場の成分はこの励起場から来るものであり,材料媒体にも,媒体を取り囲む自由空間にも存在する.分極部分は励起場の誘電材料の束縛電荷の運動によって生成される場である.変位場という名前の由来は が変位場と呼ばれることが多いことにある.この簡単な項では,変位電流は変位場 の時間微分である.

変位電流 には発散演算子内部に時間微分がある.現行バージョンのWolfram言語では,そのような空間・時間混合の微分はNDSolve等の数値ソルバや関連関数で直接解くことができない.

時間依存電流の連続の方程式には導電項と誘電項があるので,伝導体と誘電材料のどちらもモデル化することができる.よい伝導体では,時間変化の場にさらされると伝導電流は変位電流よりずっと大きい.つまり,よい伝導体の場合は ,よい誘電体ではその反対となる.

Since magnetic fields are not considered in the electric current continuity equation, it is often a fair assumption to make that metal contracts are equipotential. この仮定によって,その領域を離散化しないですみ,結果的にこれらの領域で方程式を解く計算時間を短縮することができる.

と線形に変化する線形材料の場合,分極は と表すことができる.このことは静電気学モノグラフに記載してある.その結果 の間の構成関係は,となるように変化する.多くの材料において分極データは利用できないが比誘電率 は利用できるため,この変換は便利である.ElectricCurrentPDEComponentの実装に関しては両方の式を使うことができる.

時間依存電流の連続の方程式は電流源 を含むように一般化することもできる.

または比誘電率 の式を使うと以下になる:

時間依存電流の連続の方程式は,両方の表皮深さ が電気装置の特性長 よりずっと大きい場合にのみ有効である:

交流 (AC)

周波数解析では,時間調和電流をモデル化する.これは正弦波形のような調和形式で変化する電流であり,交流(AC)として知られている.周波数解析の目的は周波数領域上の電気系の周波数応答を計算することである.モデルの周波数解析はParametricNDSolveを使って行う.

電場つまり電位は,指定された周波数の正弦関数として表すことができれば時間調和と言われる.時間調和解析では,電気系がある範囲の周波数上でいくつかの調和入力信号にさらされ,関心のある周波数での装置の性能を解析する.

調和刺激に反応して,結果の電位 も時間調和を示す場合がある.任意の空間位置 における電位変化が角周波数 と時間依存の正弦波を持つ場合,その電位は時間調和と言われる.

調和電位 の一般式は以下のように書ける:

ここで は指定された位置での振幅,における最初の位相シフトである.

解析の簡便性のため,時間調和関係(21)は複素指数表現(CER)またはフェーザ表現として知られる複素数値形式で表されることが多い:

ここで は虚数単位,因子 に等しい.

慣習により,フェーザ表現は簡単に以下で表される:

これは複素数値の式の実部は実関数 を表すということが暗示的に解釈できる.

フェーザ表現は複素平面の回転ベクトル として理解することができる.以下の図はその挙動を表す.

495.gif

および における複素平面で表されたフェーザ表現.

回転ベクトル は複素振幅関数として知られている.振幅関数 は角周波数 の速さで反時計回りに回転する.指定された時間 において,実軸上への の投影は過渡電位 を表し,ベクトル長は局所振幅に当たる.

振幅関数と複素共役をそれぞれ と表すと,局所振幅は以下で計算することができる:

フェーザ表現は線形系にのみ使用できるので,場に依存できる材料特性はない.非線形の材料の場合,系を時間領域で解くように強制される.

フェーザ表現を時間依存電流の連続の方程式に挿入すると,方程式は時間非依存電流の連続の方程式に簡約される.フェーザ表現は時間依存電位を電位の振幅 と時間因子 の積として表す.

外部電流密度と分極ベクトルも振幅関数 と時間因子 で同様に表すことができる:

時間依存電流の連続の方程式は以下で与えられる:

(22)と(23)を時間依存電流の連続の方程式(24)に挿入すると,以下が得られる:

勾配 を次のように書き換えることができる:

項は空間に依存しないので以下のようになる:

次に一階時間微分項を持つ方程式25の部分を考え,それを展開する:

展開された項を再び方程式26に挿入すると以下が得られる:

共通項 をくくりだすと,方程式は時間調和電流の連続の方程式に簡約される:

時間調和電流の連続の方程式は2つの部分からできている.最初の項は定常電流の連続の方程式,2つ目の項は体積電荷密度()の時間微分の周波数バージョンである.この部分は 項を除いて静電方程式 に非常によく似ている.このような理由で電流の連続の方程式のパラメータ名は静電方程式のパラメータ名と同じなのである.

時間依存電流の連続の方程式と同様に,最初の項 は伝導電流を,2番目の項 は変位電流を指す.

時間調和電流の連続の方程式には伝導項と誘電項があるので,この方程式は伝導材料と誘電材料の両方に使うことができる.

このPDEは時間非依存の方程式である.これは時間非依存PDEなので,時間領域で電流をモデル化するために使われる時間依存電流の連続の方程式と比較して,より効率的に解くことができる.

しかし線形系では正弦波入力が結果として正弦波出力になる.この特性は時間調和解析の基本である.非線形材料の場合はこの線形性特性はなく,調和解析を使うことはできない.非線形材料の場合は,完全な時間依存シミュレーションを作成する必要がある.

線形材料では,分極は となる.これは「静電気学」モノグラフで説明してある.これは の間の構成関係を となるように変更する.多くの材料について分極データは利用できないが比誘電率 は利用できる場合が多いので,この変換は便利である.ElectricCurrentPDEComponentの実装については,両方の式を使うことができる.

時間依存電流の連続の方程式も電流源 を含むように一般化することができる.

または比誘電率 を含むこともできる:

時間調和電流の連続の方程式は,両方の表皮深さ が電気装置の特性長 よりずっと大きい場合にのみ有効である:

電流のステップ関数 のような非調和周期入力の場合,フーリエ解析を使って発生する場を決定することができる.このアプローチではそれぞれの周期ステップ関数等の,調和周期入力の各フーリエ係数に対する時間調和電流の連続の方程式を解くことが必要となる.そして重ね合わせの原理を使って解を構築する.

計算した解 は,時間調和関係(方程式27)を使うと簡単に時間領域に変換しなおすことができる.

電流モデルの設定

このセクションで示す定常電流および動的電流の連続の方程式はすべてElectricCurrentPDEComponentで生成することができる.

このPDE演算子を利用するためには,変数 vars とパラメータ pars を設定する必要がある.次のサブセクションでは,いろいろな場合についてこれを行う方法を示す.

静電流モデルの設定

静電流の連続の方程式は以下で与えられる:


PDEモデルを指定するために,モデル変数 vars を設定する必要がある.定常変数は vars={V[x,y,],{x,y,}}で指定される.ここで従属変数 は単位[]の電位,{x,y,}は単位[]の独立空間変数である.

次は定常電流モデルで指定できるパラメータ pars のリストである:

3Dの定常電流モデル:

このモデルの定義には非アクティブなPDE演算子が使われている.非アクティブな演算子については「偏微分方程式の数値解法」に記載されている.

動的電流モデルの設定

動的モデルでは周波数モデルか時間依存モデルのどちらかを設定することができる.

両方の動的モデルで,静電流パラメータ pars が使える:

さらに「静電気学」モノグラフで詳述してある以下のパラメータも使える:

時間依存電流モデルの設定

時間依存電流の連続の方程式は以下で与えられる:

時間依存モデルを指定するためには変数を vars={V[t,x,y,],t,{x,y,}}として指定する.ここで は単位[]の時間変数である.

周波数依存電流モデルの設定

周波数依存電流の連続の方程式は以下で与えられる:

周波数依存モデルを指定するためには,変数を vars={V[x,y,],ω,{x,y,}}として指定する.ここで は角周波数である.この場合,角周波数 は従属変数 の引数ではない点に注意する.

3Dの時間調和電流モデルを設定する:

2Dモデル

電位 方向でのみ変化して 方向では一定のとき,3Dモデルは - 平面の2Dモデルとしてモデル化することができる.

このタイプの対称性は,場の分布が電気機械の断面に平行な平面で繰り返される,回転電機でよく見られる[Cardoso, 2018].

576.gif

矩形平板の伝導.左の図では電位 が全領域上で可視化されている.プロットは電位が に関して変化しないことを示しているので,- 平面の領域でモデル化することが可能である.右の図では における解の差分を示しており,無視できるほどである.

この対称性を使って,以下の方程式を解く:

ここで []は 方向の厚さを示す厚さ変数である.

厚さ の2D定常モデルを設定する:

厚さのデフォルト値は である.

1Dモデル

3Dモデルの電位 方向および 方向で一定である場合,モデルを1D表現に簡約することができる.電流のこの1Dモデルでは 方向と 方向を囲む断面積 []が方程式に組み込まれる:

断面積のデフォルト値は である.

断面積Aの1D定常モデルを設定する:

軸対称電流モデル

2D軸対称

軸対称シミュレーションは,3D立体が回転軸を持つときに実行することができる.軸対称モデルは円筒座標の代りに,独立変数を持つ2D切頭円筒座標系を使う.この系は 軸について回転対称なので,円筒座標変数 は消える.

線形材料の定常電流に対する2D軸対称方程式は以下で与えられる:

軸対称モデルは,完全な3Dモデルを解く場合に比べて時間とメモリにおける計算コストがずっと少ないという利点を持つ.

関数ElectricCurrentPDEComponentを使うと定常電流の連続の方程式の軸対称形式が得られる.このためにはパラメータ"RegionSymmetry""Axisymmetric"に設定する.

2D軸対称定常電流モデルを設定する:

2D軸対称モデルは,周波数および時間依存の方程式の変形について,また外部電流 を使うときに生成することができる.

2D軸対称周波数モデルを設定する:

この場合,電位は 方向で一定である.これは電場が 平面に接線方向であることを意味する.「同心球コンデンサモデル」では2D対称モデルがどのように使われているかを示している.

1D軸対称

1D軸対称形状では,電位は 方向と 方向の両方で一定である.線形材料の定常電流についての1D軸対称方程式は以下で与えられる:

ここで []は 方向の厚さを示す厚さ変数である.

1D軸対称定常モデルを設定する:

異方性材料

異方性材料は,力学的,熱,電気等の特性がどの方向でも一様な等方性の反対で,方向によって異なる動作を示す材料である.

異方性導体では電気伝導率 はテンソルである.3Dの場合,テンソルには9個の成分がある:

ここで は電気伝導率テンソルである.はそれぞれ主伝導係数,非対角伝導係数である.

2D異方性定常電流の連続の方程式を設定する:

複数材料

モデル化したい装置が複数の材料でできていることはよくある.そこでシミュレーション領域で異なる材料がモデル化できる必要が出てくる.複数材料領域のシミュレーション処理を示すために,2つの材料板をモデル化する.

下の鉄の層とつながっている上の銅の層を考える.銅の層の左境界は電位接触,鉄の層の右下の境界は接地境界の役割を果たす.電流は左上から右下に流れる.

2つの異なる材料の板.上は銅,下は鉄である.

平板の長さを定義する:
境界メッシュを手動で構築する:

ここで要素マーカーを使用して部分領域に異なる伝導率を与える.

材料マーカーを定義する:
領域マーカーとともに要素メッシュを構築する:
モデルの変数とパラメータを定義する:
方程式を定義する:

左上隅は接地し,右下隅は電位1を持つ.

境界条件を指定する:

ElectricPotentialConditionについて"ElectricPotential"の値が指定されていないと,デフォルトで0と設定される.

PDEを解く:
電位 を可視化する:

電位のプロットから,電位は銅・鉄の接触面全体で連続して であることが分かる.

電場の強さ と電流密度 , が計算したい場合,異なる材料間の接触面では場は不連続になり得ることを考慮に入れる必要がある.これらの条件についての詳細は「接触面条件」のセクションに記載されている.次ではこれの解き方を見る.

この例では が境界面において不連続性を示す.

電場 成分を計算する:
材料の境界面における 場の不連続性を可視化する:

上のプロットは軸 に沿って材料の接触面全体での不連続性を示す.左と右それぞれからという値が同時に見られる.

問題となるのは,接触面での値を制御できないということである.

材料の接触面での 場の値を可視化する:

接触面における場の値を制御することができないことは揺れるプロット線から分かる.材料の接触面でInterpolatingFunctionを評価すると,1つの値の部分領域の値またはもう一つの部分領域の値が与えられると,値はランダムになる.

この問題を回避するために,DiscontinuousInterpolatingFunctionまたはEvaluateOnElementMeshを使う.この方法は次に示す.

まず電位関数DiscontinuousInterpolatingFunctionに変換する.

電位補間関数を不連続補間関数に変換する:

2つ目のステップとして電場の強さ を計算する.

電場の強さを計算する:
材料の接触面での 場の不連続性を可視化する:
材料の接触面での 場の値を可視化する:
性を可視化する値を計算する:

不連続点で返される値は銅の値である.制御できることに優先する動作である.DiscontinuousInterpolatingFunctionまたはEvaluateOnElementMeshは部分領域のうちの一つの値を優先する.デフォルトは材料マーカーの順に基づく.

"MeshElementMarkerUnion"を調べる:

この場合,デフォルトは鉄領域より銅領域を優先するということである.マーカーの優先順位の使用を示すために,銅領域より鉄領域を優先するマーカーの優先度を持つ勾配を再計算する.

鉄領域を優先して電場を計算する:
この値と上の値を比較する:

この方法を使うと,どちらの材料領域が他方より優先されるかという接触面での動作に対して正確に制御ができる.DiscontinuousInterpolatingFunctionは2つの異なる材料間の接触面での値を計算し,プロットでそれを使ったり次の計算の引数として使ったりするのに非常に便利である.

その他の数量を計算するときにもこの方法が使える.例えば電流密度ベクトル である.ここで 接触面で連続的に変化するが は不連続性を示す.次に電流密度ベクトル を計算する:

電気伝導率 はここではPiecewise関数なので,材料境界で不連続性がある.EvaluateOnElementMeshを利用してDiscontinuousInterpolatingFunctionを生成する.

電気伝導率 を抽出する:
電流密度 を計算する:
電位 と電流の流れ を可視化する:

このプロットから,電流の流れ は予想通り の等高線に対して垂直であることが分かる.接触面では の電流の向きが屈折している.

ソースタイプ

電流の連続の方程式は,常に単位が[]である電流源 を含むよう一般化することができる.ソース項はゼロであることが多いが方程式に加えることが必要なこともある.

さまざまなソースタイプの表現は「静電気学」モノグラフで使ってあるものと同じ構造に従う.その形状によって,ソースは体積源,線源,点源に分けられる.電流モデルでは静電気モデルよりもソースが使われることはずっと少ない.電流源が物理的にどのように見えるかははっきりしない.それでも設定することはできる.実際のコードの例は,体積電荷密度3Dの点電荷2Dの線電荷の例が見付かる静電気学モノグラフを参照していただきたい.

体積電流源

電流の連続の方程式の右辺にあるソース項 []はソースとして使われ内部電場 を生成する.ソース項は ,のときはソースとして,のときはシンクとして作用する.

ここで は体積電流源の値を示す.

メッシュはソース項 の幾何学的境界に従うということが重要である.その最善の方法はそのためのメッシュを明示的に生成することである.解法として使われる有限要素法は,個々の要素が材料境界を超えないメッシュの恩恵を受けている.別の方法としてMeshRefinementFunctionを使うというものもある.この場合要素は材料境界を超えるが,メッシュが十分細かければそれはわずかである.両方のアプローチを組み合せることもできる.

体積源は領域内の任意形状のソースやシンクをモデル化するために使うことができる.体積電流源の値は常に単位[]で指定される.この名前は体積源の3D版に由来するが,別の次元でも使われる.

であり電流の連続の方程式の単位が[]である1Dの場合を考える.単位[]の体積電流源 を指定すると,その値に断面積 (単位は[])が掛けられ最終的に単位は[]になる.

体積電流源 で定常電流PDEを定義する:

である2D領域の場合も同様に,体積源 (単位は[])に厚さ (単位は[])が掛けられ最終的に単位は[]になる.

体積電流源 で定常電流PDEを定義する:

点電流源

点電流源 []は のときは内部ソースを,のときはシンクをモデル化するために使うことができる.点源は空間拡張を持たないと考えられている.点源は3Dモデルまたは2D軸対称モデルで使うことができる.

3Dモデルでは点源はどこに置くこともできる.

2D軸対称モデルでは,点源は対称軸上に指定されたときだけ存在することができる.軸対称モデルの回転という点を考えると,対称軸以外の点は線源を意味する.

点源は平面外の線源と同じと考えられるため,2Dモデルでは使われない.これについての詳細は「線源」セクションをご覧いただきたい.

708.gif

2D軸対称領域(灰色)の対称軸上に指定された点源(赤).対称領域を回転しても点源は線源にならない.

点源 の単位は常に[]であり,体積電流源 の単位は[]である.一般的に積分の体積内の体積電流源は以下に等しい:

ここで は全電流(単位[])である.

単位は:

これを定式化すると以下になる:

ここで はディラックびデルタ関数である. はソース位置の各方向で単位を持つ.これにより体積電流源 の式が導ける:

ディラックのデルタ関数は離散化された空間領域で解くことができないので,数値シミュレーションにおいて問題を引き起こす.これはディラックのデルタ関数がソース位置 において特異だからである.2つ目の問題は係数の評価が辺ではなく常にメッシュ要素内で起こるということである.それゆえディラックのデルタ関数の近似が必要になる.ディラックのデルタ関数の近似処理は正規化と言われる.

さまざまな正規化デルタ関数 が利用できる[Peskin, 2002][Bilbao & Hamilton, 2017].このチュートリアルでは以下を選ぶ:

ここで は正規化デルタ関数 のサポートを制御する正規化パラメータである.通常 はメッシュ間隔 に匹敵するサイズである. は差分 を表す.

を中心とする正規化デルタ関数 を設定する:
軸対称モデルの点源

軸対称モデルの概念は以前と同じであり,体積電流源の式は以下で与えられる:

ここでディラックのデルタ関数は対称軸のソース位置 で単位を与える.ここで 平面上にあり0から2 の間の任意の数である.軸対称の場合を考えるので を指定する必要はない.

線電流源

線電流源または層源 []はモデルの形状に厚さを持たせるには薄すぎるソースまたはシンクをモデル化する.線源は3D,2D,2D軸対称の領域で使える.

の単位は常に[]で指定される.

3D領域では,線源は形状に任意に浮いている線を含む形状の辺に沿って指定される.

2D軸対称領域では2つのオプションがある.対称軸上で指定される線源,または対称軸の周りのシミュレーション領域の回転からその長さを得る点源である.

2Dでは,平面外の方向のモデルの厚さ のため,点もまた線源を表す:

758.gif

左:3D線源と平面.右:同じ線源を2Dで見たもの.

3Dモデルの線源

3Dモデルでは線源は形状の任意の辺で指定することも,形状に任意に浮いている線として指定することもできる:

また変形 および も可能である.

ここで はソース位置 におけるディラックのデルタ関数であり,単位を提供する. は線源の値である.

2Dモデルの線源

平面外の線源をモデル化するためには,点をソースとして指定する必要がある.

点はどの方向にも空間的拡張がないので,ディラックのデルタ関数 はモデル領域の各次元( 等)に適用しなければならない:

ここで はソース位置 におけるディラックのデルタ関数(単位は)である. は線源の値, は厚さ(単位は[])である.

軸対称モデルの線源

2D軸対称モデルでは,線源は対称軸 上で指定することができる.体積電流源 は次で与えられる:

ここで はソース位置 におけるディラックのデルタ関数(単位は)である. は線源の値である. 平面上にあり,0から2 の任意の数である.軸対称の場合を考えるので, を指定する必要はない.

二次的数量

シミュレーションが完了すると従属変数の解が出る.主要な従属変数から派生した数量に興味を持つ場合が多い.これらは二次的数量と呼ばれる.二次的数量はモデルのより深い理解を促し,抵抗,インピーダンス,エネルギー関連のパラメータ等の数量を含む.

抵抗とインピーダンス

電流を解析するとき,静的な状態では抵抗 ,時間調和の場合にはインピーダンス またはアドミタンス のような電磁気特性を計算することができる.

電気抵抗は物体中の電流の流れに対する抵抗であり,オームの単位で測定されギリシャ文字のオメガ[]で記号化される.抵抗を計算するためにはオームの法則のスカラー版を使う:

ここで []は装置を通る電流, []は装置全体で測定される電圧, []は装置の抵抗である.この方程式は,装置の2つの点を通過する電流は,抵抗 を比例定数としてその2点の電圧に正比例するというものである.

そのAC版はインピーダンス である.これは装置の抵抗と電気容量の結合効果による交流に対する抵抗である.インピーダンスもオーム[]で測定され,複素数値で表現される.リアクタンス は複素インピーダンスの虚部を構成し,抵抗 は実部を形成する:

インピーダンスの逆数がアドミタンス であり,ジーメンス[]で測定される.装置のインピーダンス(周波数解析で計算される)と同じ装置電気容量,抵抗(定常解析で計算される)の間には関係があるということを知っておく必要がある.装置のリアクタンス を計算するために静電解析を使うことができる.同様に装置の抵抗 を計算するために定常電流解析を使うことができる.

インピーダンスの計算方法を示す例は,「周波数解析」セクションのコンデンサの概要の例で見ることができる.

次の例ではオームの法則を使って銅線の一部の抵抗を計算する方法を示す.

銅線の長さは []で半径は []である.銅線に一定電流 []を適用し,電圧降下を測定してそこから抵抗を計算する.

834.gif

上面から電流を通す銅線.

銅線の長さと半径を定義する:
Cylinderで銅線を構築する:
シミュレーション領域を離散化する:
変数とパラメータを定義する:
定常電流の連続の方程式を定義する:

表面 []で銅線は接地している.もう一端 []で一定電流( [])源に接続される.

接地電位を指定する:

電流源を正確にモデル化するためには,境界で正常電流密度を適用する必要がある.この銅線に []を流したい場合,正常電流密度の値は電流を表面積で割ったものになる.

後者はElectricCurrentDensityValueで自動的に行われる.

内向きの電流の流れを指定する:
PDEを設定する:
PDEを解く:
電位を可視化する:

ここで銅線の抵抗を計算するためにオームの法則を使う:

抵抗はElectricCurrentImpedance関数を使って計算できる.

抵抗を計算する:

この関数は装置全体での電圧降下 を計算して で割る. を得るために,関数は述語(この場合 )が合致する境界で平均電圧を計算する.つまり,この関数はモデルから得た電圧Vfunを統合して,その結果を同じ境界の面積で割るのである.

銅線が電流 ではなく電圧 で帯電したらどうなるだろうか.その場合は電流 が未知の変数, が既知の変数となる.境界から流入する電流 は,対応する境界表面上の電流密度ベクトル の法線成分を統合することによって得られる.ここで境界における法線成分は電流密度 成分に等しい.この手順はもElectricCurrentImpedance関数を使って行うことができる.

一般に関数は入力として,電圧(一定電圧 か補間関数 )と電流密度ベクトル として与えられる電流または一定の電流値 を必要とする.

次のコードでは,電流密度ベクトル を使って抵抗 を計算する.

電場成分を計算する:
の電気伝導率を抽出する:
電流密度成分を計算する:
電圧 を計算する:
抵抗を計算する:

または境界における電流密度ベクトルの法線成分(この場合負の方向の 成分である)を使う.

を使って抵抗を計算する:

また,抵抗 []を計算する別の方法として,まず電力 []を計算してから を使うというものがある.この方法は以下のセクションで説明する.

電力と抵抗損失

電力 []は場の数量についてのエネルギー []の変化率として定義され,以下で表される:

ここで電力密度 は次で与えられる:

これはジュールの法則と言われる.伝導体ではこの力は熱に変換される.熱移動モデルと定常電流解析を組み合せる方法については「タングステン線のジュールの法則」の例をご覧いただきたい.

銅線モデルの電力を計算する:
銅線の抵抗を計算する:

電流の境界条件

電流モデルの境界条件は2つのうちのどちらかの範疇に入る.一つは伝導体の電位を指定するディリクレ条件,もう一つは電流密度 の法線成分の値を指定する境界条件である.この境界はノイマン値境界条件で指定する.

どのモデルでも,偏微分方程式が解けるようにするためには少なくとも一つの電位境界条件を指定しなくてはならない.

上の2つのタイプの境界条件の他,周期境界条件という3つ目のタイプがある.これは,多極回転電機等の形状に反復的な部分がある場合や,領域の拡張を減らしたい場合などに便利である.このタイプの境界条件は境界の一部の電位 が他の部分と同じになるように指定する.

これら3つのタイプの一般的な境界条件では,以下の境界条件が導入される:

電位境界条件,反対称境界条件,周期境界条件の詳細は「静電気学の境界条件」セクションで説明する.

ノイマン値境界条件は,2つの異なる媒体からなる領域に存在する場を調べるときに出現する.場が媒体を分ける接触面で満足しなければならない条件は接触面境界条件という.

電位境界条件

電位境界条件の目的は,境界のある部分に電位を設定することである.

従属変数 についての境界 上の電位はElectricPotentialConditionでモデル化する:

ElectricPotentialConditionDirichletConditionを返す.述語はDirichletConditionのときと全く同じように指定することができる.

電流密度境界条件

電流密度境界条件の目的は外部境界において内向きまたは外向きの電流の流れを定義することである.つまり,この境界は境界における電流のソースまたはシンクを表す.

境界 に垂直な規定のスカラー電流流れ []では,境界条件は以下で与えられる:

境界に垂直な電流密度ベクトル が指定されており,それがゼロではない境界は,電流密度境界と呼ばれる:

慣習で の前に負の符号を置いて,電流の流れが外向きの境界法線 とは逆方向に指定されることを示す.したがって正の値は内向きの電流の流れを意味し,負の値は外向きの流れを意味する.

オームの法則(方程式28)は電流密度ベクトル と電位勾配 を関連付ける:

方程式29を方程式30に代入すると が得られる.

内向きの電流の流れは通常の電流密度 を指定してElectricCurrentDensityValueでモデル化することができる:

ElectricCurrentDensityValueNeumannValueを返す.述語は述語はNeumannValueのときと全く同じように指定することができる.

境界の電流密度ベクトルが []で境界の 単位法線が ならば,境界条件は以下で与えられる:

ここで は境界の電流密度場である.法線 は自動的に加えられBoundaryUnitNormalを使って計算される.BoundaryUnitNormalは領域上の外向きの単位法線ベクトル を表す.

内向きの電流の流れは電流密度ベクトル を指定してElectricCurrentDensityValueでモデル化することができる:

あるいは電流 []を指定することもできる.これは次に等しい:

ここで []は境界 の面積である.

内向きの電流の流れは定常電流 を指定してElectricCurrentDensityValueでモデル化することができる:

電流密度がゼロのベクトルとして指定されていたり,法線成分がゼロ値で指定されていたりする場合,その境界には電流源や電流シンクはない.これはノイマン0境界条件と等しい.指定された境界で境界条件が指定されないときは,電気絶縁境界条件がデフォルトの境界条件になる:

内部境界では境界に電流の流れ込まず,電位は境界全体で不連続であることを意味する.

電気絶縁境界条件を定義する:

対称境界条件

対称境界条件は,計算領域および想定される電位がシミュレーションの軸について鏡面対称であるときに使われる.

対称境界条件は のドット積として与えられる:

これは以下と同等である:

次とも同等である:

これは電場の強さの法線成分がゼロであることを意味する.

従属変数 に対する対称条件はElectricSymmetryValueでモデル化する.

ElectricSymmetryValueはゼロのNeumannValueを返すので,対称境界条件は電気絶縁境界条件に等しい.

境界のいずれかの部分で境界条件が指定されていない場合は,ノイマン0境界条件が適用される.

次の例では銅管と同軸の棒に垂直な薄い円形フォイルを介した電流の流れをモデル化する方法を示す.中心の棒と管は領域から削除され,境界条件でモデル化される.

943.gif

アニュラスとしての円形フォイル.内側の半径は中心の棒の端を表し,外側の半径は管の内端を表す.濃い灰色の部分がシミュレーション領域である.

問題の2回軸対称性により,領域の4分の1だけモデル化すればよい.上の図の濃い灰色の部分はこのシミュレーションで使う4分の1である.または8分の1をモデル化することもできる.いくつかの方法が可能である.

ここでは,境界条件の指定が簡単という理由から,半径の分割が および である4分の1をモデル化する.

幾何学的パラメータを定義する:
領域の4分の1を定義する:
変数とパラメータを定義する:

円形フォイルには2つの一定であるが異なる電位がある.管の端と中心の棒の端である.

電位境界条件を定義する:

半径のの切断 および で対称境界条件を適用する.

対称境界条件を定義する:

これらはデフォルトの境界条件なので省略できる.

PDEを解く:
電場を計算する:
ベクトル場 を可視化する:

このプロットから,電場が対称線で境界に平行であることが分かる.つまり,電場の法線成分はこれら2つの境界ではゼロである.

解を縮小されたシミュレーション領域ではなく完全領域上で可視化することもできる.以下では電流密度ベクトルの 成分の等高線プロットを領域全体に示す.

電気伝導率 を抽出する:
電流密度を計算する:
領域全体に を可視化する:

周期境界条件

周期境界条件の目的は,領域の周期性をモデル化するために1つの境界の電位を別の境界にマップすることである.

周期境界 から目標の境界に電位 をマップする関数 がある場合,周期境界条件は以下のように書ける:

PeriodicBoundaryConditionでモデル化された従属変数 の周期境界条件:

静電気学モノグラフの「周期境界条件」セクションでは多数の円形電極の例が示されている.

材料の接触面条件

マクスウェル方程式は連続的材料について有効である.しかし電磁気学では,電場または磁場が一つの媒質内で生成され,異なる物理特性を持つ第2の媒質に伝わることもよくある.任意の2つの材料の接触面は材料における物理的非連続面である.問題は複数材料領域ではどのようにマクスウェル方程式を解くのかということである.

複数材料の場合,電磁場の数量についての接触面条件が導入される.マクスウェル方程式の解を得るために,この接触面条件を満たさなければならない.

2つの異なる材料を分離する接触面境界において以下の条件を満足する必要がある:

ここで []は媒質1と媒質2の接触面に沈着する表面電荷密度であり, は同じ接触面上の表面電荷密度の時間変動である.

時間変数 との混同を避けるために,法線のシンボルとして ,接線のシンボルとして を使う.これにより方程式31,方程式32,方程式33がよりよく説明できる.

方程式34は以下のように書くことができる:

これは,表面電荷密度が意図的に接触面に置かれると,電流密度の法線成分は不連続になることを意味する.そうでない場合は,電束密度は接触面全体で連続である.

どちらの場合も,電場は連続ではない.これを示すために を代入すると以下が得られる:

これは の法線成分が接触面境界で不連続でなければならないことを示す.2つの材料誘電率は である.が成り立つのは,場 が不連続のときだけである.

方程式35を使うと以下の式が得られる:

これは電場 の接線成分が接触面に沿って連続であることを意味している. を代入すると以下の方程式が得られる:

これは電束 の接線成分が不連続であることを意味する.

最後に,方程式36は次のように書ける:

これは,の法線成分が不連続なので電流密度ベクトル も不連続であることを示している. は両方の媒質の接触面上の表面電荷密度の時間変動に等しい差分で不連続になる.

は,誘電率と伝導率の不連続性のため,接触面上に電荷が集まることを意味する.

表面電荷密度の比率がなければ法線成分は連続である.

これは「電流密度境界条件」セクションで説明した通り,自然境界条件である.

電場の接線成分が連続 であるということと構成関係 を使うと,電流密度ベクトルの接線成分の動作は以下になる:

これは電流密度 の接線成分が接触面全体で不連続であることを意味する.

モデルにさまざまな媒質が含まれると,このような接触面条件は,我々が解こうとしている主となる変数に対する直接の結果を持つ.接触面では,電位 は以下の条件を満たす必要がある:

ならば,以下になる:

ここで は法線微分である.

最初の条件は の直接の結果であり,2つ目は の結果である.これらの条件は文献では連続条件として知られている.これらの条件は自然に有限要素法を満足するので,電磁計算に有限要素法を使うことを正当化する.つまり,追加の方法を取らなくても有限要素法が自動的に処理する.

用語集

参考文献

1.  Agarwal, A., & Lang, J. (2018). Foundations of Analog and Digital Electronic Circuits (2nd ed.). Morgan Kaufmann.

2.  Bilbao, S., & Hamilton, B. (2017, October). Directional source modeling in wave-based room acoustics simulation. In 2017 IEEE Workshop on Applications of Signal Processing to Audio and Acoustics (WASPAA) (pp. 121-125). IEEE.

3.  Cardoso, J. R. (2018). Electromagnetics through the finite element method. Boca Raton: CRC Press.

4.  Peskin, C. S. (2002). The immersed boundary method. Acta numerica, 11, 479-517.

5.  Sadiku, M. N. O. (2011). Elements of electromagnetics (5th ed.). Oxford University Press.