Wolfram Computation Meets Knowledge

常微分方程式

はじめに

純科学・応用科学で関心の対象となる常微分方程式の研究における主要分野が4つある.

  • 厳密解.与えられた問題を満足する閉形式の式,または陰的な解析式
  • 数値解.厳密解より広範なクラスの問題で利用できるが,通常限定された範囲の独立変数でのみ有効
  • 定性的理論.解の全体の特性に関与し,現代の力学系へのアプローチでは特に重要
  • 存在定理と一意性定理.1組の条件が微分方程式で満足されるなら,ある望ましい特性を持つ解が存在するということが保証される

この4つの分野のうち,厳密解の研究の歴史が一番長く,ニュートン(Isaac Newton)とライブニッツ(Gottfried Wilhelm von Leibniz)が微積分を発見した直後にまでさかのぼる.以下の表は,DSolveで解くことのできる方程式の種類をリストしたものである.

方程式名
一般形式
発見年
数学者
分離系1691ライブニッツ
同次1691ライブニッツ
一階線形常微分1694ライブニッツ
ベルヌーイ(Bernoulli)1695ベルヌーイ
リッカティ(Riccati)1724リッカティ
一階厳密常微分 とする)1734オイラー
クレロー(Clairaut)1734クレロー
定数係数線形は定数)1743オイラー
超幾何1769オイラー
ルジャンドル(Legendre)1785ルジャンドル
ベッセル(Bessel)1824ベッセル
マシュー(Mathieu)1868マシュー
アーベル(Abel)1834アーベル
キーニ(Chini)1924キーニ

これらの各タイプに属する常微分方程式の例は,別のチュートリアルに記載されている(表のリンクをクリックすると,関連した例題が開く).

一階常微分方程式

通常の積分

以下の方程式は,右辺を について単純に積分することで解くことができる:
任意定数C[1]の異なる値に対する積分曲線のプロットである:

変数分離形微分方程式

この方程式の一般解は,変数の分離により見付かる:

変数が分離できるときでも,最終解ではSolveの警告メッセージが表示されることや,InverseFunctionオブジェクトとしてのみ与えられることがある.

以下の常微分方程式を解くときに警告メッセージが表示されるのは,SolveExpの逆関数のLogを使って の式を得るためである.この警告メッセージは無視してもよい:
以下の方程式の解は, の明示的な式を得るために InverseFunction オブジェクトとして与えられる:

同次方程式

これは,右辺の分子と分母両方の合計次数が2である同次方程式である.2つの部分からなる解のリストは,という形式で積分曲線の分岐を与える:
以下では両方の分岐をプロットし,C[1]のいくつかの値についての完全な積分曲線を表示している:
初期条件が指定されている場合は,DSolveによって初期値を通過する分岐が選ばれる.メッセージDSolve::bvnulは,一般解の1つの分岐(上のグラフでは下方の分岐)が指定された初期条件 y[1]3を満足する解を与えないことを示している:

一階線形方程式

この方程式には の両方が一乗で含まれており,が最高階の導関数なので,これは一階線形常微分方程式である.解には虚数誤差関数Erfiが含まれている点に注意のこと:
一般的な一階線形常微分方程式の解である.変数Kは,積分のダミー変数として使われている.上の例のErfi項は,以下のように一般解の第2項にあるネストされた積分から派生するものである:
さらに一般的な形式の解は,K[1] 等の変数で置き換えることで得ることができる:

逆線形方程式

与えられた常微分方程式が では線形ではないが,では線形と見られることがある.このような方程式を逆線形の常微分方程式と言う.

以下は逆線形の常微分方程式である.これは上の例題の とを入れ換えて構築したものである:

ベルヌーイ(Bernoulli)方程式

ベルヌーイ方程式は,次の形式

の一階線形常微分方程式である.この型の方程式を解く問題は,1695年にベルヌーイによって提示された.その1年後の1696年に,ライプニッツ(Leibniz)は,変数を変えることにより,それが線形方程式に簡約できるということを示した.

以下はベルヌーイ方程式の例である:
解が正しいことを検証する:

一般にベルヌーイ方程式の解は,個の分岐で構成される.ここで は方程式に含まれる の次数である.

以下は のベルヌーイ方程式の例である.解には4つの分岐がある:

リッカティ(Riccati)方程式

リッカティ方程式は,以下の形式

である二階線形常微分方程式である.この方程式は,リッカティ(1776-1754)が二階常微分方程式を解くときの助けとして使ったものである.

リッカティ方程式を解くことは,線形常微分方程式を解くのよりも難しい.

これは簡単なリッカティ方程式で,解は閉形式で求められる:

リッカティ方程式はすべて二階線形常微分方程式に変換できる.二階線形常微分方程式が明示的に解ける場合は,リッカティ方程式の解を導くことができる.

以下はリッカティ方程式と,それに対応する二階常微分方程式のルジャンドル(Legendre)方程式である:
最後に,次のリッカティ方程式を考える.右辺の項の係数の和がゼロなので,これは積分可能である:
解を検証する:

厳密方程式

これは厳密な常微分方程式の例である:
解を検証する:
解の等高線プロットである:

方程式が厳密でないときは,方程式を厳密形に変換する積分因子(すでに定義した関数PおよびQの乗数)を見付けることができる.このような場合,DSolveはさまざまな手法を使って自動的に積分因子を見付けようと試みる.

クレロー(Clairaut)方程式

クレロー方程式は,以下の形式

の一階常微分方程式である.この非線形方程式の際立った特徴は,一般解が非常に簡単な形式となるという点である.

クレロー方程式の例:

クレロー方程式の一般解は,直線の集合となる.

以下で C[1] のさまざまな値に対する解をプロットする:

アーベル(Abel)方程式

アーベルの常微分方程式は,以下の形式

である一階の方程式である.この方程式は,ニールス・アーベル(Niels Henrik Abel)が楕円関数理論について研究していろ時に発見されたものであり,リッカティ方程式の自然な一般化を表す.

アーベルの常微分方程式はすべて,方程式の係数,および独立・従属変数への座標変換における不変式から構築される式の列に関連している.これらの不変式は各方程式の特徴を示しており,アーベル常微分方程式の積分可能なクラスを見付けるのに利用することができる.特に,ゼロあるいは一定の不変式を持つアーベルの常微分方程式は簡単に積分でき,その方程式の重要な積分可能クラスを構成する.

以下は,値ゼロを持つ特殊な不変式の構築と,対応するアーベルの常微分方程式の解である:

積分可能なアーベルの常微分方程式の重要なクラスとして,非線形の座標変換を使った一階逆線形常微分方程式に還元できるクラスがある.

このアーベルの常微分方程式は,一階逆線形常微分方程式に変換することで解く.この解のExpIntegralEi項は,線形常微分方程式を解くことで生じる:

積分可能なアーベルの常微分方程式の重要な別のクラスとして,逆リッカティ方程式に変換できるクラスがある.リッカティ方程式は二階線形常微分方程式に変換できるので,このクラスの解は通常,AiryAiBesselJ等の特殊関数で与えられる.

以下のアーベルの常微分方程式は,逆リッカティ方程式に還元することで解く:
解を検証する:

ここまでのアーベルの常微分方程式は,第一種と考えられる.第二種のアーベル常微分方程式は,以下の一般系で与えられる.

第二種のアーベル常微分方程式は,座標変換を施した第一種アーベル方程式に変換できる.従って,第二種アーベル方程式の解法は,第一種方程式の解法と同じである.

以下は第二種アーベル常微分方程式の解である:
解を検証する:

キーニ(Chini)方程式

キーニ方程式は,アーベル方程式とリッカティ方程式を一般化したものである.

キーニ方程式を解く:

二階線形常微分方程式

概要

一階線形常微分方程式を解くのは単純であり,必要なのは適切な積分因子を使うことだけである.これとは著しく対照的に,二階線形常微分方程式を扱うために使えるメソッドは多数ある.しかしこのクラスに属する一般方程式の解はまだ求められない.従って,ここでは二階非線形常微分方程式に入る前に,線形の場合について詳述する.

一般的な二階線形常微分方程式は以下の形式である.

ここで, の任意関数である.「線形」とは の各項の次数が1であるという意味である(よって,あるいは 等の項があると,方程式は非線形になる).

定数係数二階線形微分方程式

二階線形常微分方程式の最も簡単なものは,定数係数方程式である.

これは定数係数二階線形常微分方程式である:

一般解は2つの指数関数の線形結合である.任意定数C[1]C[2]は特殊解を生成するために変化させることができる.

方程式の1つの特殊解である:

基底の指数は,関連した二次方程式を解くことにより求められる.この二次方程式は,補助方程式あるいは特性方程式と呼ばれる.

補助方程式を解く:

この場合,根は実数で異なったものである.これとは別に,実数の重根,虚数根の2つの場合が考えられる.

この例は,実数の重根を持つ:
この例は虚部が非零の根を持つ:
3つの解のプロットである:

オイラー(Euler)方程式とルジャンドル(Legendre)方程式

以下はオイラー方程式の一般形である.

オイラー方程式は,定数係数方程式に変換することで解くことができる.

次はオイラー方程式の例である:

ルジャンドル方程式は,オイラー方程式を一般化したもので,以下の形式の常微分方程式である.

ルジャンドルの線形方程式の例である:

厳密な二階線形方程式

二階線形常微分方程式

は,

が成り立つ場合,「厳密である」と言われる.厳密な二階線形常微分方程式は,一階線形常微分方程式に還元することにより解くことができる.

これがその例である.解に未評価の積分があることについての説明は,ここを参照のこと:
解を検証する:

特殊関数を含む解を持つ方程式

DSolveでは,応用数学で見られるほとんどの標準の二階線形常微分方程式の解が見付けられる.

エアリー(Airy)方程式の解である:
が大きな負の値のときのエアリー関数の振動挙動を示すプロットである:
この方程式の解は,エアリー関数の導関数であるAiryAiPrimeAiryBiPrimeで与えられる:
ベッセル方程式の解である.解は第一種ベッセル関数BesselJおよび第二種ベッセル関数BesselYで与えられる:
特殊値 のときのBesselJ関数のプロットである:
以下は のときのルジャンドル方程式の一般解である:

これらの特殊関数は,そのパラメータの特定の値に対する初等関数で表すことができる.Wolfram言語は可能な限り自動的にこの変換を実行する.

以下は,自動的に変換された式のうちのいくつかである:

この変換の結果,ある常微分方程式の解は部分的に初等関数で表すことができる.エルミート(Hermite)方程式はそのような常微分方程式のひとつである.

以下は任意の を持つエルミート方程式の解である:
5とすると,解は多項式,指数関数,Erfiで与えられる:

有理係数を持つ二階線形常微分方程式

ベッセル関数やルジャンドル関数等の多くの重要な関数は超幾何関数の特殊形なので,超幾何関数は数学解析で統合的な役割を果たす.各超幾何関数は,有理係数を持つ線形常微分方程式と関連している.

Hypergeometric2F1関数の常微分方程式である:

DSolveは,二階線形常微分方程式を超幾何関数の常微分方程式に還元することによって,そのクラスの多くを解くことができる.還元には,独立変数と従属変数両方の座標変換が関与する.

以下の方程式は,Hypergeometric2F1の常微分方程式と等価である:
数値を使って解を検証する:
下の方程式の解は,HypergeometricU(合流型超幾何関数)とLaguerreLで返される.この例は,[K59]の403ページの方程式2.16に記載されている:

特殊関数の常微分方程式は,18世紀から研究されている.この30年の間に,有理係数を持つ常微分方程式を系統的に解くためのパワフルなアルゴリズムが開発されてきた.このタイプのアルゴリズムで重要なものに,コバシック(Kovacic)法がある.これは,与えられた常微分方程式の解をリュービル(Liouvillian)関数で生成するか,与えられた常微分方程式がリュービル解を持たないことを証明するかのどちらかを行う決定手続きである.

コバシック法を使って,この方程式を解く:

コバシック法で返される解には,ExpIntegralEi等の関数や初等関数の未評価の積分が含まれることがある.その理由は,二階線形常微分方程式のひとつの解が分かった後で,第2解を見付けるのは簡単であるが,第2解を求めるのに関与する積分は,明示的に評価するのが難しいためである.

この方程式の解は,コバシック法で得られる.解にはExpIntegralEiが含まれている:

一般に,有理数係数を持つ二階以上の線形常微分方程式の解は,DifferentialRootオブジェクトで与えられる.これはRootによる多項方程式の解に似ている.

以下の方程式の解はDifferentialRootで与えられる:
解は通常通り評価したりプロットしたりすることができる:

非有理係数を持つ方程式

実践的な応用分野で生じる常微分方程式には,非有理係数が含まれることがよくある.そのような場合,DSolveは適切な座標変換を使って,方程式を有理係数を持つ方程式に変換しようと試みる.

以下は係数にExp[x]を持つ方程式である.この方程式はベッセル方程式に変換することにより解かれる:
下の方程式([K59]の507ページに記載の方程式2.437)は三角係数を持つ.解は,初等関数で与えられる:
これは の係数が双曲線関数となっている方程式である.解はルジャンドル関数で与えられる:
この方程式の解は,HypergeometricULaguerreLで与えられる:
以下で乱数値 を使って解を検証する:

二階線形非同次方程式

与えられた二階常微分方程式が非同次ならば,DSolveはその問題の解を返すために定数変化法を適用する.

以下で二階線形非同次常微分方程式を解く.解は,同次方程式の一般解と非同次方程式の特殊解の2つの部分からなっている:
同次方程式(オイラー方程式)を解く:
解の定数C[1]C[2]を変化させることで,異なる特殊解が得られる:

二階非線形常微分方程式

二階非線形常微分方程式の一般形は

である.ここで,この方程式を最高階数の導関数 について解くと以下が得られるとする.

二階非線形常微分方程式には,解が簡単に見付けられるクラスがいくつかある.

最初のクラスは,明示的には に依存しない方程式である.つまり,という形式の方程式である.このクラスの方程式は,において一階常微分方程式とみなすことができる.

このタイプの例である:

二階線形常微分方程式の場合と同じように,解は2つの任意パラメータC[1]C[2]に依存する.

指定したパラメータについての解のプロットである:
解を検証する:

簡単に解ける二階非線形方程式の2つ目のクラスは, にも にも明示的に依存しない方程式である.つまり,という形式の方程式である.このクラスの方程式は独立変数 を持つ一階常微分方程式に還元できる.の最終解を与えるには,逆関数が必要である.

このタイプの例である:

3つ目のクラスは, に明示的に依存しない方程式である.つまり,という形式の方程式である.これもまた,独立変数 を持つ一階常微分方程式に還元できる.

以下の例は,[K59]の550ページに記載の方程式6.40に基づいている.内在する一階常微分方程式はアーベル方程式である.解の双曲線関数は,ベッセル関数を自動簡約化した結果である:

4つ目のクラスは,変数 のどれか,あるいはすべてが同次である方程式である.この場合は,いくつかの例が考えられるが,ここでは以下に挙げる簡単な例だけを考える.

次の方程式では,各項の変数 の全次数は2である.この方程式は,一階常微分方程式に変換することで解くことができる:

最後,5番目のクラスは,厳密な方程式,あるいは積分因子を使って厳密にすることができる方程式である.

このタイプの例である.[K59]の554ページの方程式6.51に基づいている:

極めて単純に見える非線形常微分方程式の解が複雑であることがある.そのような場合の解を検証・適用することは難しい問題である.

高階常微分方程式

概要

階常微分方程式の一般形は下のようになる.

二階常微分方程式の場合と同様,高階常微分方程式も線形・非線形の分類ができる. 階線形常微分方程式は,以下のような一般形を持つ.

がゼロ関数ならば,方程式は同次であるという.このセクションは,主に同次方程式に限定する.

二階線形常微分方程式の解法の多くは, 階( は2より大きい)線形常微分方程式に一般化することができる.常微分方程式の階数が重要でない場合は,単に線形常微分方程式という.

定数係数高階線形常微分方程式

定数係数線形常微分方程式は,補助方程式(特性方程式)の根が分かると,簡単に解くことができる.以下にその例を挙げる.

この常微分方程式の特性方程式は,4,1,7という実数の異なる根を持つ.従って,解は完全に指数関数で構成される:
以下の常微分方程式の特性方程式は,2組の重根を持つ.重根は解の基底になる:
次の常微分方程式の特性方程式は,虚部が非零である2組の根 を持つ.よって,解の基底は三角関数と指数関数で表すことができる:
最後に,以下は上記の解の種類すべてを組み合せた例である:

高階のオイラー方程式とルジャンドル方程式

オイラー方程式は,次の形式の常微分方程式である.

これはオイラー方程式の例である:

ルジャンドル方程式は,オイラー方程式を一般化したものである.これは次の形式である.

ルジャンドルの線形方程式である:

厳密な高階方程式

階の線形常微分方程式

は,

が成り立つときに「厳密である」といわれる.厳密さの条件は,問題を階数 の方程式を解くことに還元するために使うことができる.

これは厳密な常微分方程式の例である:
厳密性の条件を検証する:
方程式を解く:
解を検証する:

その他の高階方程式

多くの二階常微分方程式の解は特殊関数で表すことができる.一定の高階常微分方程式の解は,AiryAiBesselJ等の特殊関数を使って表すこともできる.

次の三階常微分方程式の解はエアリー関数の積で与えられる:
この三階常微分方程式の解は,ベッセル関数で与えられる:
次のプロットは実線の異なる部分での解の振動挙動を示す:
以下の四階線形常微分方程式の解は,HypergeometricPFQで表される:
数値を使って,解が正しいことを検証する:

二階線形常微分方程式の場合と同様に,有理係数を持つ高階常微分方程式を解く現代的アルゴリズムがある.このようなアルゴリズムは,有理関数と,有理関数の積分の指数関数との組合せである「有理数指数」解を与える.アルゴリズムは,与えられた常微分方程式の完全解を求めるために階数の減少等の技法と組み合せられる.

下の方程式の一般解には,有理項1つとエアリー関数に依存する項が複数ある.エアリー関数は,方程式の階数を2に減らしたために生じる:

ここまでに提示した方程式は同次方程式である.つまり,方程式に あるいはその導関数を持たない項がない.与えられた常微分方程式が非同次ならば,DSolveは定数変形法を適用して解を得る.

このタイプの例である.解の指数項は,同次方程式の一般解から派生し,残りの解は問題の特殊解(特殊積分)である:
同次方程式の一般解である:
この特殊解は,非同次方程式の一般解の一部である:

従って,非同次方程式の一般解は,同次方程式の一般解と常微分方程式の特殊積分との和である.

高階非線形常微分方程式の解法は,問題を低階に還元することにかなり依存している.

にも にも明示的に依存しない三次非線形常微分方程式である.これは簡単な積分を使って,階数を二階に減じることで解かれる:

常微分方程式系

はじめに

常微分方程式系は,電気学や生物資源学等のさまざまな科学分野で重要である.常微分方程式系も単独常微分方程式のように,線形・非線形に分類することができる.

一階線形常微分方程式系は,以下の形式で表される.

ここで は未知関数のベクトル,は未知関数の係数行列,は系の非同次部を表すベクトルである.

二次元の場合,系は以下のようにより具体的に書き表すことができる.

行列 の要素がすべて定数であるなら,系は定数係数線形系という.が零ベクトルならば,同次系という.

線形系の解の重要な全体特性は,定数係数同次常微分方程式系を考えることで明確になる.

線形常微分方程式系

以下の2つの常微分方程式系の係数行列は,実数で異なる固有値を持つ:
以下のようにして系を解く.一般解は2つの任意定数C[1]C[2]に依存している:
C[1]C[2]に特定の値を与えることにより得られたいくつかの特殊解のプロットである.この場合,原点はノードと呼ばれる:
以下の系では,係数行列の固有値は互いの複素共役となっている:
系を解く:
以下は,任意パラメータのさまざまな値に対する解をプロットする.螺旋動作は,複素固有値を持つ系では一般的である:

定数係数を持つ任意階の同次常微分方程式は,簡単に解ける.このような方程式は,一階常微分方程式系に変換して解く.

以下で,定数係数三階同次常微分方程式系を解く:
解を検証する:

一般に,非定数係数線形常微分方程式系は,次の例で示すように,係数行列が単純な構造である場合にのみ解くことができる.

下の一階の系には,対角係数行列がある.この系の最初の方程式には だけが含まれており,2つ目の方程式は だけに依存しているため,この系は非結合である.従って,系の各方程式は他方に依存することなく積分できる:
この系の係数行列の行は,ベクトルの直交成分を形成する:
次は3つの一階常微分方程式からなる系である.係数行列は上三角係数行列である:

単独常微分方程式の場合と同様に,有理係数を持つ常微分方程式系を解くためにも高度なアルゴリズムが使える.

有理係数を持つ2つの一階常微分方程式からなる系を解く.解は完全に有理関数になっている:
以下の例では,アルゴリズムによって および の有理解が1つ見付かっている(の方程式は系に含まれる他の方程式と非結合である).DSolveはこの有理解を使って,および の残りの指数解を求めることができる:

ここまでの系はすべて同次であった.系が非同次(つまり,従属変数およびその導関数を含まない項がある場合)ならば,DSolveは定数変化法か未定係数法を適用して,一般解を見付ける.

非同次系を解く:

非同次系の特殊解は,定数C[1]およびC[2]に値を割当てることで得られる.

パラメータを1つ選んだときの解のプロットである:

非線形常微分方程式系

以下で,DSolveを使って記号的に解くことのできる非線形常微分方程式系の例を2つ挙げる.

4つの非線形常微分方程式からなる以下の系で,最初の3つの方程式の右辺はどれも に依存していないので,その3つは独立に解くことができる:
2つの非線形常微分方程式からなる下の系は,どちらの方程式の右辺も に依存していないという点で自励系である:

上記2つの例により,かなり単純な系の解は通常独立変数の複雑な式となることが分かる.実際,解は陰形式でのみ求められることがよくあるので,InverseFunctionオブジェクトや未評価のSolveオブジェクトを含むことがある.

Lie対称性による非線形常微分方程式の解法

1870年ごろ,Lie (Marius Sophus Lie)は,微分方程式を解くための方法の多くを群論で統合できることを発見した.Lie対称性による解法は,現在の非線形常微分方程式の研究において中心的アプローチとなっている.Lie対称性による解法では,対称性の概念を使って系統的に解を生成する.ここではLieのアプローチを簡単に紹介し,DSolveがこの方法を使って解く例題を挙げる.

Lieの解法の主要な概念は,対称群の無限小生成作用素というものである.この概念は以下の例で示す.

次は - 平面での有名な回転変換である.これはパラメータ の1パラメータ変換群である:

が固定値のとき,点(青)は(赤)と原点を結ぶ直線を角度 まで,反時計回りに回転させることで得ることができる.

までの回転は,以下の行列で表すことができる.

次は,平面上のすべての回転の集合が群を形成する特性を満足することを示している:

Lie対称性による解法では,群の一次近似式を計算する必要がある.この近似式が無限小生成作用素と呼ばれるものである.

級数の の式を原点0付近で について展開し,線形近似式を求める:
の線形項の係数はそれぞれ である.平面の回転群の無限小生成作用素は,以下の微分演算子で定義される:
もとの群は,基本的なLie方程式系をこの無限小生成作用素から積分していくことにより回復できる.回転群では,以下に示すように,Lie方程式はDSolveの第1引数で与えられる:

回転群は幾何オブジェクトの対称性の研究で生じるもので,対称群の一例である.無限小生成作用素(微分演算子)は,この対称群を簡単に局所表現するもので,行列の集合の形式を取る.

無限小生成作用素の動作により0に還元された式は,群の不変式と呼ばれる.

この群の不変式である:
次は,原点から, までの距離は回転しても保存されることを意味している:

次の例では,上記の考えを微分方程式に適用する.

これは[I99]の103ページから引用したリッカティ方程式の例である:
上のリッカティ方程式は,次のスケール変換を行っても不変である:
次の1パラメータ変換群の無限小生成作用素は,以前と同様に見付けられる:

ここで,リッカティ方程式は3つの変数 に依存する.ゆえに,無限小生成作用素 は,この一次方程式の3つの変数すべてに作用するよう拡張しなければならない.

必要な拡張は下のようになる:
座標のリッカティ方程式の式は,prolongedvを施しても不変であることが分かる:

対称性(無限小生成作用素の形式)は,与えられた方程式の次数によって,3通りに使うことができる.

  • 方程式の次数が1の場合,方程式を厳密・可解にする常微分方程式の積分因子を与える.
  • 方程式が簡単な(積分可能な)形式となる正準座標集合を与える.
  • 階常微分方程式を解く問題を 階常微分方程式を解く問題に還元する.後者は通常前者よりも簡単である.

関数DSolveは与えられた常微分方程式に標準的な種類の対称性があるかどうかをチェックし,それを使って解を返す.以下は,DSolveがこのような対称性による解法を使う常微分方程式の3つの例である.

一階非線形常微分方程式([K59の315ページ,方程式1.120)である:
この常微分方程式には,次の無限小生成作用素を含む対称性がある:
この対称性があるために,DSolveは積分因子を計算し,解を返すことができる:
解を検証する:
次は,[K59]の213ページにある方程式6.93に基づく二階非線形常微分方程式である:
この方程式は,下のスケール変換を施しても不変である:
このスケール対称性があることにより,DSolveは独立変数が明示的に存在しない新しい座標を見付けることができる.これで,問題は簡単に解ける:
解を検証する:
最後に挙げるのは,シフト 使って解くことのできる一階非線形常微分方程式2つからなる系である.このシフトの後,系は自励系(明示的に に依存しない)になる.これは の関数として の一階常微分方程式に還元することで解くことができる.メッセージSolve::ifunは無視してもよい.これはExp[v]の式をLogの式で与えるための変換で生成されたものである:

以上が常微分方程式についての説明である.